村上春樹の1Q84ならぬT社XPU11の話 |
その後、浴槽を見て頂く為に足を運んだ京橋のI社ショールームで偶然見つけたスエーデン、イホー社製の小型で可愛らしい卵の殻を切り出したような小便器U-IF-4104を夫妻は大変気に入られた。
ただ、育ち盛りの男の子2人が使うには一寸華奢で壊してしまいそうに思えた。
帰ってから、カタログでこれに形が似て、少し丈夫そうなT社のUFH560を探し出し、これをお勧めし、了解を得た。
その後、これも決め切れていなかった洗面器を確認しに再び訪れたT社ショールームで、念の為UFH560の使い勝手を確かめてみた。どうも、形は悪くないが、気をつけないと小便を便器から外しそうだ。
大きすぎたり、外しそうだったりで、またまた、話は振り出しに戻ってしまった。
腰を落ち着けて、もう一度、T社やI社のカタログをじっくり読みこんだ。
そして、T社のXPU11に辿り着いた。
電話してみると、住宅向けショールームではどこにも実物を展示していないという。
紹介された田園都市線桜新町にある専門家向けショールームのあるテクニカルセンターに
予約をとり、今度こそは!と実物を確認しに出かけた。
一昨日立ち寄った軽井沢駅レストルームの小便器の上部には確か「一歩前に出て」と小さなステッカーが貼ってあり、現在進行中の工事現場近くの神保町駅近くの和風居酒屋のそれには「一歩前進、ねらいを定めて,発射!」と大きく書いてあった。良く見かける風景である。どこの男子便所も、必死でそそう防戦につとめているのを、男性設計者ならよく知っている。
我々設計者は、店舗やビルの設計時、小便器下の床を汚れが滲みにくく目立たない黒色の御影石やタイルで仕上げたり、これをやや周辺の床より少し高めにして奥行きを調整してこの範囲に人が否応なく立つように仕向ける等、配慮してきた。
大げさかもしれないが、小便器対策は男子便所の持つ「永遠のテーマ」であった。
そして、それらの主要な原因は使う側にあると、実は殆ど、いや全ての設計者は、それはそれは長い間、思い込んできた。
しかしである。
XPU11(写真)は、それが、設計者や殆どの人の誤った思い込みであったことを、見事に証明してみせていた。
実は小便器そのものに、「接近し難い」「小便をはずしやすい」原因が有ったのだということを実際の「形」で、どうだ!と示してくれていたのだ。
目からうろこである。
写真のように
①これまでの小便器と異なりその上部の奥行きが薄くなっていて、上から小便器底部がとても見やすい。
②下部受け口のリップ部の巾が細くとがったようになっていて、しかも①の理由もあり、言われなくても容易にこれを挟むようなかたちで前進して人が立てる。
③小便器左右の縁が斜めに前面に突き出ていて小便の左右へのはずれを見事にガードしている。
④③の為、身長が大きいほど人と左右の縁の先端とが離れ小便が外れやすくなるのだが、便器の幅が上広がりになっていてこれをカバーしている。
⑤当初見た便器より、可能な範囲ではあるが、小型になっている(小児兼用なのである程度の大きさは物理的に必要と思われる)。
しかも
⑥T社取得特許の対汚染釉薬の採用、尿石対策、新しいセンサーの採用で節水対策も実現している。
これまでの小便器に関して長い間続いてきた「歴史的」形の常識を大きく覆した、
何とも見事な「用」に対する回答であろうか!
先週水曜、N夫妻との打合せで、勿論、XPU11の採用が確定した。
TOTOが安田アトリエ(東京工業大学大学院教授安田幸一)をデイレクターに迎え開発したこの小便器を含む「RESTROOM ITEM 01」の製品シリーズは今年、2009年度グッドデザイン賞金賞他に輝いた。