第2章/木材の乾燥と収縮・割れ 03/火打ち・土台の乾燥・収縮によるボルトの緩み |
2018年 09月 26日
前稿・02で、木材の乾燥・収縮による梁同志、梁・柱の接合部仕口金物ボルトの緩みについて考察してきた。 続いて、床剛性を担う直交する梁に絡む火打ち材ー梁間の接合ボルト、及び基礎と土台を緊結するアンカーボルトの緩みについて、考察してみたい。 火打ち材・梁については杉芯持ち材、土台については檜芯持ち材と米ヒバ芯去り材*の場合を想定する。 (*檜芯持ち材は辺材=白太部分が腐朽菌・白蟻に弱いので、筆者は米ヒバを採用することが多い。米ヒバの土台は殆どが大径木から製材される芯去り材の為、乾燥割れを免れ、かつ、ほぼ全断面が腐朽菌・白蟻に強い心材=赤身であることが、その理由である。) ちなみに、各材の平均収縮率は以下である。 杉 接線方向0.26% 半径方向0.09% 長さ方向0.011% 檜 接線方向0.21% 半径方向0.11% 長さ方向0.013% (以上森林総研・マジソン林産研究所/木材は乾かして使う) *上記数値は無欠点のJIS小試験材で測定したもので、 実大材の収縮はこれよりも小さい。/木材は乾かして使う 米ヒバ 接線方向0.18% 半径方向0.08% 米マツ 接線方向0.33% 半径方向0.14% (参考) (以上データ出所不明/世界で一番くわしい木材、(株)エクスナレジ) 杉火打ち材105角と杉芯持ち梁材120×300接合部ボルトの緩み: 生材の場合 120×(30-10)×0.26%* +133.5×(30-10)×(0.09×1/√2+0.011×1/√2)%** =6.24*+1.91**=8.15㎜ 人工乾燥材の場合 120×(25-10)×0.26%* +133.5×(20-10)×(0.09×1/√2+0.011×1/√2)%** =4.68*+0.95**=5.63㎜ 30%:生材繊維飽和点の含水率 25%:人工乾燥梁材の想定含水率 20%:人工乾燥正角材の想定含水率 (各含水率の想定根拠については前章参照) * 梁巾の収縮量。火打ち材は梁に天端合わせ、ボルト位置は梁上部の接線方向で 取り合うので、その平均収縮率を採用。 **火打ち材のボルト方向収縮量。半径方向、長さ方向各平均収縮率のボルト方向 ベクトルの和を火打ち材のボルト方向平均収縮率として計算。 火打ち材の場合、ボルトが梁、火打ちの2部材、特に収縮率の大きい梁材成上部の接線方向を貫通する為、生材で8.15㎜、人工乾燥材でも5.63㎜と、やや大きい緩みが生じることが判明した。 冒頭の平均収縮率の説明(*)によれば、現場での緩み量はこの数値より小さめに出、かつ、梁材、火打ち材には通常かなり深い座堀りを施すことも多く、その場合は相当分上記計算より小さくなるかとは思われるが、(又、これらの緩みがどの程度床の剛性に影響を与えるかは不明であるが)緩み量を極小化する為の対応策を考えてみたい。 筆者の場合、真壁工法の場合でも施工手間(工事費)節約の為、何時からか天井などに隠蔽される火打ち材はビス止め鋼製火打ちを指定してきた。ビス止めであれば梁や火打ちの巾方向の収縮の影響を受けず緩みは生じない筈なので、この指定は緩み対策上も有効であったと気づかされた。(但し、鋼製火打ちでもボルト締めタイプでは木製火打ち同様の緩みが生じてしまう。) 結論から言うと、化粧で見せる木製火打ちの場合、竣工後、火打ち・梁材の含水率が屋内平行含水率に達する以降に、「追い締め」することが有効な手段になりそうだ。 火打ち材両端のボルトの頭や逆側のナットが室内に露出している場合はボルトの頭(あるいはナット)を押さえ逆側からナット(あるいはボルト頭)で締めれば容易に追い締め出来る。あるいは、ナットから飛び出たボルト端をプライヤーで押さえナットをレンチで締めれば、片側から(一人でも)追い締め可能である。 但し、火打ち材の片側が外壁側梁にからみ、梁を貫通したボルト端が外壁仕上げ材で隠蔽されるような場合、それがナット側だと、追い締めしようと室内側からボルトの頭をレンチで占めてもボルトは空廻りして締めることが出来ない。必ず、ナットが室内側にくるように納め、前記のようにプライヤーのお世話になる必要ありそうだ。梁外部側に座堀りして、ボルト頭を沈めれば、外部仕上げあるいはその下地材の邪魔をしない点でも都合が良い。片側ボルト端が天井裏に隠れる場合も同様である。 そうした配慮がされていない場合の追い締めについて: 上記のケースで、相模原市Y邸の10年点検時、大工棟梁がインパクトレンチで一気に締めたところ、なんとボルト頭側からでも無事締まった!そうだ。勿論、両端とも室内側に化粧で納まる火打ちのボルトも含め全て片側からインパクトレンチで難なく締めることが出来たと言う。(全てのケースでこれがOKであるか、未確認ではあるが)現場ならではの貴重な収穫であった。 真壁工法でも天井を張って火打ちのボルト両端(頭やナット側)が隠蔽される箇所は、追い締め出来ないので、既に述べたように、ビス止め鋼製火打ちにしておく必要があるかと思われる。 追い締めを前提にしない場合は木製火打ちにこだわらず、思い切って形の良いビス止め鋼製火打ちを選んで化粧で見せるか、剛性の高い木製化粧パネル状の床材(例えばJパネル、化粧構造用合板)等を採用し火打ちに代えるのも、一案かも知れない。 大壁工法の場合、追い締めはまず不可能なので同様である。 檜芯持ち材土台120角の場合のアンカーボルトの緩み: 生材の場合 120×(30-15*)×0.11%=1.98㎜ 人工乾燥材の場合 120×(20-15*)×0.11%=0.66㎜ * =土台の平衡含水率、15%と想定(以下同) 土台の場合、床板や壁仕上げで隠蔽されてしまうので、まず追い締めは不可能である。いずれも緩み量は微小ではあるが、より乾燥した材を選べば、その分、緩み量は押さえられる。 米ヒバ芯去り材土台120角の場合のアンカーボルトの緩み: 生材の場合 120×(30-15)×0.08%*~0.18%**=1.44*~3.24**㎜ 人工乾燥材の場合 120×(20-15)×0.08%*~0.18%**=0.48*~1.08**㎜ **=同接線方向に平行の場合 より乾燥した材を選べば緩み量はその分押さえられるのは檜の場合と同様であるが、(特に生材の場合)土台を収縮率の小さい半径方向が出来るだけアンカーボルトに平行になるよう(垂直になるよう)納めれば緩みは最小で納まる。 尚、ホールダウン金物の場合のボルト部分の緩みは、柱繊維方向の収縮はほぼ0と考えられるので、土台垂直方向の収縮のみが全収縮量にイコールとなり、上記アンカーボルトの場合と全く同じと考えられる。 高温セット処理を採用した人工乾燥材については本稿検討の対象外である。本章01概論参照。
by noguchintk
| 2018-09-26 17:00
| 真壁・軸組・木構造
|
ファン申請 |
||